以前の記事「【最新データ】訪日外国人観光客数と宿泊業界へのインパクト」で触れた通り、2026年のインバウンド市場は、中国からの訪日客が大幅に減少する一方、他の複数の市場が力強く成長するという構図が続いています。この記事では、今後の集客戦略において注目すべき国・地域を、具体的なデータとともに掘り下げて紹介します。
台湾:安定的に高成長を続ける市場
台湾からの訪日客数は、2026年を通じて多くの月で前年を大きく上回り、7月には単月で初めて70万人を超える過去最多を記録しました。地理的な近さに加え、リピーターの多さでも知られる市場であり、今後も安定的に高い水準の需要が見込まれます。
韓国:トップクラスの規模を維持
韓国は多くの月で訪日客数トップの座を維持しており、月によっては前年比20〜30%増という高い伸びを記録しています。近さと利便性を背景に、宿泊業界にとって引き続き重要な市場であり続けると考えられます。
中東(GCC諸国):「最後のブルーオーシャン」と呼ばれる高付加価値市場
アラブ首長国連邦、サウジアラビアなどGCC(湾岸協力理事会)加盟国からの訪日客数は、2024年に44,700人(前年比34.6%増)、トルコなどを含めた中東8か国合計では166,300人(前年比51.8%増)と大きな伸びを記録しました(JNTO・JETRO調べ)。業界のセミナーなどでも「日本にとってほとんど未開拓でありながら、世界有数の高付加価値旅行市場」として紹介されるなど、注目度が高まっている市場です。2026年もJNTOの月次データにおいて、中東地域が単月の過去最多を記録する場面が見られています。
ただし、2026年は中東情勢の緊迫化により、英国の経済シンクタンク、オックスフォード・エコノミクスが同年の中東地域の旅行需要成長率予測を大幅に下方修正するなど、短期的な不透明感も存在します。中長期的なポテンシャルは高いものの、情勢の変化には注意を払う必要がある市場と言えます。
インド:単月の過去最多を記録する新興市場
2026年のJNTOデータでは、インドが複数の月で単月の過去最多を記録しており、着実に存在感を高めている市場のひとつです。人口規模の大きさや、中間層の拡大を背景に、中長期的な成長が期待される市場として注目されています。
東南アジア:多くの市場で堅調な伸び
ベトナム、インドネシアなど東南アジアの複数の市場でも、月ごとに過去最多を記録するケースが見られ、全体として堅調な伸びを見せています。地理的な近さと、経済成長を背景にした旅行需要の拡大が、今後も続くと見込まれます。
米国:ウェルネスツーリズムとしての新たな訴求
米国市場は着実な伸びを見せており、JNTOも「ウェルネスデスティネーションとしての日本」を米国向けに訴求する取り組みを強化しています。温泉や伝統的な癒しの文化を持つ旅館・宿泊施設にとって、このウェルネス訴求の流れは追い風になり得ます。
中国:引き続き不透明な状況が続く
一方で、これまで訪日インバウンドの主要な柱であった中国からの訪日客数は、2026年を通じて前年比50〜60%台の大幅な減少が続いています。渡航に関する注意喚起や航空便の減便などが影響しており、短期的な回復の見通しは不透明です。中国市場への依存度が高かった宿泊施設にとっては、他市場への展開が重要な経営課題となっています。
宿泊業界にとっての実践的な示唆
すべての市場に同時に対応しようとしない
複数の有望な市場が存在する一方で、限られたリソースの中ですべての言語・文化に対応するのは現実的ではありません。まずは英語対応を基本としつつ、自社の立地やコンセプトと相性の良い市場(例:温泉旅館であれば米国のウェルネス層、伝統文化体験であれば中東の富裕層など)を見極め、優先順位をつけて取り組むことが現実的なアプローチです。
特定市場への依存を避ける
中国市場の急激な落ち込みが示すように、特定の国・地域に依存した集客は、その市場の情勢変化によって大きなリスクを負うことになります。複数の市場から満遍なく集客できる体制を、中長期的な目標として意識しておくことが望ましいでしょう。
情勢の変化を継続的に注視する
中東情勢の例が示す通り、有望とされる市場であっても、国際情勢によって短期的な需要が大きく変動することがあります。「インバウンド需要の変化に対応するサイト運用の考え方」で紹介した、変化を前提とした運用体制の考え方は、市場選定においても同様に重要です。
まとめ:多市場を見据えた、柔軟な集客戦略を
今後注目すべき市場は一つに絞られるものではなく、台湾・韓国といった安定市場、中東・インドといった成長市場、東南アジア・米国といった着実に伸びる市場など、多様な選択肢が存在します。特定の市場に偏らず、自社の強みと相性の良い市場を見極めながら、柔軟に対応していく姿勢が、これからのインバウンド集客において重要になります。
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出典:日本政府観光局(JNTO)訪日外客数推計値、JNTO・JETRO GCC諸国関連データ、オックスフォード・エコノミクス旅行市場予測(2026年)

